一樹君の恋人は天使なんです
その後。
水穂子は息を引き取った。
一樹は驚き、少し茫然としていた。
(一樹さん…私は天使さんに一度救われたの…)
どこからともなく聞こえた声に、一樹はハッと我を取り戻した。
「この声は…水穂子? 」
(そうよ、一樹さん。ずっと10年も私の事、想っててくれて有難う。でも、もういいよ。一樹さん、前を見て)
「…前を…」
言われた通り視線を送ると、そこには悠の姿が見えた。
悠はムスッとして俯いている。
(彼女の事、好きなんでしょう? 判るよ。だって、彼女は私を助けてくれようとしたの。でももね、私の魂が決めたことに逆らうことはできなかったから。…だからずっと、彼女は自分の事責めているんだよ…)
「何で? 」
(彼女はずっと、私と一樹さんを見ててくれたの。それで、私が死にそうになったから助ける為に来てくれたんだよ)
「じゃあ…もしかして…」
(彼女は天使。可愛いでしょう? 普通の人とは違うもん)
「…ああ…」
(天使は人を助ける為に尽くしているでしょう? だから、目の前で私が死んで自分を選定るの。ちょっと時間がかかるけど、焦らないで。彼女の心を癒せるのは、一樹さんだけだよ)
スーッと気配が消えたのを感じた一樹は、もう一度悠を見た。
ムッとして俯いている悠だが、なんだか泣いているようにも見える。
一樹はそっと、悠の頭を撫でた。
「俺、お前に何されたのか分からんねぇけど。もういいぜ、そんなに自分の事責めなくても」
「…だって…」
「もういいから。とりあえず、お前夕べから何も食べてないだろう? 」
そう言えば。
一樹に言われると、悠は空腹を感じてお腹がグーッと鳴った。
「腹減ってんだな。だから、イライラしてんじゃねぇ? 」
「イライラなんて、してないもん…」
ちょっと拗ねているような顔をする悠を見て、一樹はなんだかかわいく思えて笑えて来た。