一樹君の恋人は天使なんです

「さて、俺には何も隠し事もないし。ここで何を話しても、問題はない」


 じっと一樹は悠を見つめた。


「後はお前だな。ちゃんと向き合ってくれるか? 俺と」

「…分かりました。全部話します」


 俯いていた悠が、ゆっくりと視線をあげた。


「全部話しますから。私の事、嫌いになって下さい」

「嫌いになれって? なんで? 」

「…私、悪魔ですから」

「悪魔? 」

「そうです。あなたを不幸にする、悪い悪魔です」


 真剣な目をして悪魔だと言う悠だが、瞳はとても悲しそうで。

 一樹は胸がキュンとなった。


「悪魔…俺は悪魔が悪いやつとは思わないけど? 」

 
 ふわりと優しい目で一樹が見つめてきた。

 そんな眼差しを受けて、悠はドキッとした。


「悪魔が悪い奴で天使がいい奴って決めているのは、誰なんだ? 」

「え? …えっと…」

 
 聞かれてみると、悠はそんなことを考えたことがない事に気付いた。

 物心つくころから「悪魔は悪い奴」「人間は酷い生き物」と教えられてきた。

 それだけで決めていた事。

 誰が決めたことなのか、そんなことは考えたことがなかった。


 黙っている悠を見て、一樹はフッと一息ついた。


「あの時と同じこと言っているな…」


 一樹はそっと立ち上がり、悠の隣に座った。


 距離が近くなると、悠はちょっと緊張した面持ちになった。


「覚えているか? 俺と初めて会った時の事」

「初めてって…? 」

「ずーっと前。お前が俺の事務所に来る前に、一度会っているだろう? 」


 事務所に入る前に…。

「あ…」


 思いだした悠は、ハッと目を見開いた。

「思い出してくれたか? 」

「…はい…」

 ちょっと恥ずかしそうに悠は俯いた。

「初めて事務所に来た時から、ずっとどこかで会ったって思っていたんだ」

 
 そっと、一樹は悠の目にかかる前髪をすくった。
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