一樹君の恋人は天使なんです


 一樹も悠の向かい側に座り、そっと、悠の前にカップを置いた。


「あ、有難うございます。宜しいのでしょうか? 自分なんかが、頂いても」

「何言ってんだよ。よく頑張ってくれているの、知っているぞ。他の奴らの分も、仕事してくれているだろう? 」

「いえ。…自分は、独り身ですから。時間は沢山あるわけで。帰っても、特に何も急ぐこともないと思われ…。その…。仕事をしているほうが、楽しいだけであって。…他の方達は、ご家族がいらっしゃったり、お子さんがいる方もいるわけで…。自分は、好きでやっているので気にしたことはないので…」


 ほう? と、ちょっと目を見開いて、一樹は悠を見ていた。


 じっと見られていることに、ちょっと恥ずかしくなり、悠は珈琲を一口飲んだ。


「あちっ…」

 
 思ったより熱い珈琲に、思わず声を漏らしてしまった悠。

 そんな悠を見て、一樹は小さく笑った。



 笑った? 
 笑うこともあるんだ…。
 初めて見たように思われるけど…。

 
 ちょっと驚いた顔をして、悠は一樹を見ていた。


「お前って、見ていて飽きないな」

「はぁ? 」


「話し方も変わっているし、表現も素直で。…ずっと見ていたいって、思えるな」

「はぁ…」


 何だろう? バカにされているのかな?

 
 悠はちょっと複雑だった。


「こんな気持ちになれたのは、久しぶりだな。本気で笑ったのも、何年ぶりか…。そんだけ俺、余裕がなかったんだな」


 ふと、一樹の目が悲しそうに曇った。


「あ、えっと…。そんなことは、ないと思われます…」

 
 ん? と、一樹は悠を見た。


「あ、あの。お仕事が、お仕事なので。いつも、真面目なんだと思われ。余裕がないとか、そうゆうのではないと、思われ…」


 また、一樹はフッと笑った。


「ありがとな、そう言ってもらえると。なんとなく嬉しいな」

「は…はい…」


 やっぱりこいつって、天然だな。
 でも、誰よりも優しいんだ。
 こんな俺の事でも、庇ってくれようとしてくれるくらいだ。
 でも…
 指、すげぇ綺麗だなぁ…。


 悠の手を見て、指がとても細くて長く、綺麗な手をしているのに気付いた一樹。


「あ、もう10分過ぎましたよ」

「ああ、そうか? 」

「はい。お仕事、まだ沢山あられるので。失礼します。カップ、洗っておきましょうか? 」

「いや、いい。俺、まだ飲んでるし。わざわざ下まで持って行って洗うより、俺が洗ったほうが早いからな」

「でも、所長にそんな事させられないので」

「いいよ、俺が引き留めたんだ。気にするな」


 そう言って、優しく微笑んでくれた一樹。

 悠はその顔を見るとまた、ドキっと胸が高鳴った。

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