一樹君の恋人は天使なんです

 悠は高熱が出たため、病院へ受診にきていた。



 金奈総合病院。

 待合室で悠が待っている。

 大きめのマスクをして、眼鏡をかけている悠。


 すると。

 隣にけがをした痛々しそうな小さい男の子が、お父さんと一緒にやって来た。


 ふと、男の子のお父さんを見て、悠は一樹と似ていると思った。



 小さな男の子は腕を痛そうに抑えている。

 泣いていたようで目は涙目になっていた。


「幸喜、もうすぐ順番だからね」

 お父さんが優しく声をかけると、幸喜と呼ばれる男の子は頷いた。


 ふと、幸喜は悠を見た。

 高熱でちょっと虚ろな悠を見て、幸喜はニコッと笑った。

 目と目が合うと、その笑顔に悠はちょっと嬉しくなった。


「どうしたの? 腕、ケガしたの? 」

 悠が尋ねると幸喜はこくりと頷いた。


 悠は幸喜の痛そうに抑えている腕にそっと触れた。


 不思議そうな顔をして幸喜は悠を見ている。


「もう大丈夫だよ。すぐに良くなるからね」

「・・・お姉ちゃん、有難う…」

 幸喜は満面の笑みを浮かべた。





 受診を終えて悠は家に帰ってきた。


 高熱が出てしまったこともあるが、悠は一樹に言った言葉を後悔していた。

(あんたなんか、大嫌い! )

 勢いで言ってしまった言葉だった。

 京香と一樹がキスをしているところを見て、ショックを受けた悠。


 悠も勢いで、一樹からキスされたが。


 正直気持ちは複雑だった。

 特に一樹から「好きだ」とは言われていない。

 交際してほしいとも言われたことはない。

 デートっぽい事はしたけど一度だけ。

 どうゆう関係? って聞かれても、どう答えればいいのか迷ってしまう…。

 京香と一樹がキスしていても、悠に怒る権利はない…。


「…せっかく追いかけてきて、近づけたと思ったのに…」


 深いため息をついて、悠はソファーの上に突っ伏した。
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