一樹君の恋人は天使なんです

「…え? 母さんが? それで…わかった、すぐに行く。どこの病院? 」

 
 一樹の足音が遠ざかってゆくのが聞こえた。


 ドア越しに聞いていた悠は、心配そうな表情をしていた。





 
 一樹はそのまま金奈総合病院にやって来た。

 電話は母の樹利亜が倒れて病院に運ばれたと、父の忍からの連絡だった。




 樹利亜は集中治療室に運ばれた。


 ロビーにいた忍。

 一樹と似た感じの顔をしているが、優しい表情の忍。

 その傍に、悠が受診の時に会った幸喜と幸喜の父がいた。


「あ、兄貴」

 幸喜の父が声をかけた。


「あ、夏樹」

 一樹が駆け寄ってきた。

「兄貴、来てくれたんだね有難う」

 幸喜の父・夏樹がふわりとした笑み浮かべて言った。


「母さんの具合はどうなんだ? 」

「うん、吐血があったようでICUに入っているよ。今夜は様子を見るって」

「何があったんだ? どこか悪いのか? 」

「風邪を引いていて、無理していたようで。肺炎になってて、悪化したようだよ。まだ仕事、現役でがんばっているからね、母さん」

「頑張りすぎだろう? 」


 ツンツン、と、幸喜が一樹の手を引っ張った。


「ん? どうかしたか? 幸喜」

「伯父ちゃん。天使さんいるよ」

「はぁ? 」


 幸喜はニコッと笑った。


「伯父ちゃんの事、天使さんが護ってくれているね。今日ね、朝病院に来た時。天使さんに会ったんだよ」

「朝? 病院? 」

「うん。僕、腕を怪我してたんだけど。天使さんが治してくれたみたいなんだ。診察したら、傷口が殆ど治っていて先生もびっくりしてたよ」


 天使が治してくれた? 
 まさか…


 一樹は悠を思い出した。
 
 悠は水穂子を助けようとしてくれていた。


 もし、悠が幸喜に会って怪我に気づいたら、怪我を治すことくらいしてくれそうだ。

 
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