一樹君の恋人は天使なんです
「一樹、貴方、恋しているでしょう? 」

「はぁ? んなわけ…」


「判るわよ。一樹の目が、前より優しくなっているもの」

「違う…ふられたから…」


「え? ふられたの? どうして? 」

「しらねぇよ。大嫌いって、言われたから」


 赤くなっている一樹を見て、樹利亜はクスっと笑った。

「大嫌いって言ったなら、それは本心じゃないわよ。きっと」

「どうして? 」


「本当に嫌いな人には、そんないい方しないもの。大嫌いって事は、貴女の事が本当は大好きって事よ。嫌われるために、わざと言ったのよ」

「わざと? 」

「なんだか分かるなぁ…。私も、お父さんに嫌われなくちゃって思って。真逆な事を言った事あるから。本当は大好きなのにね」


 そう言われると。


 一樹は「大嫌い」と言った時の悠を思い出した。

 一樹が「好きだ」と言った直後だった。


「あんたなんか、大嫌い! 」

 そう言って、悠は一樹を追い出した。



 言われてみればあの行動は、突き放したように見える…。

 だとしたらどうしてあんな態度を?


「一樹? 」


 樹利亜に声を掛けられ一樹はハッと我を取り戻した。


「一樹。大嫌いって言われて、あきらめる恋じゃダメよ。嫌われたって、ずっと愛しているくらいの気持ちじゃなくちゃね」


 そうなんだ。
 大嫌いって言われたけど、あきらめきれない。
 だから俺はこんなに苦しいんだ。


「有難う母さん。でも、元気になって安心した」

「天使さんに感謝しなくちゃね」

「ああ、そうだな」


「ねぇ一樹」

「な、なに? 」


 一樹をじっと見つめて、樹利亜はニコっと笑った。


「応援しているわよ、一樹の恋を」

「あ…えっと…」


 ちょっと照れてしまった一樹。

 そんな一樹を見て、樹利亜は可愛いと思った。
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