一樹君の恋人は天使なんです
「あのさ。…ちょっとだけ、俺の話し聞いてくれないか? 」
「え? 」
悠はちょとだけ視線を上げた。
「俺。ずっと、女は面倒だって思ってたのは。…10年前、好きな人が突然、事故死したからなんだ」
視線をあげていた悠が、ゆっくりと一樹を見た。
「もう10年。俺が、大学生の時付き合っていた彼女がいたんだが。通学途中で、事故に遭いそのまま亡くなったんだ。外傷はどこにもないのに、ただ打ちどころが悪かっただけで死んでしまって。好きな人が居なくなる…こんな悲しい想いをするなら、人なんて二度と好きにならいほうがいいってずっと思っていた。だから、ずっと目標に向かって走る事だけしか考えていなくて。でもあの時…木の上から舞い降りてきた天使を見たとき…俺は…また人を好きになってしまったんだ…」
まっすぐな眼差しで悠を見つめる一樹。
「本当に天使だと思った。…見た瞬間、とても暖かい気持ちになれて。胸がキュンと鳴ったから」
悠はそっと視線を落とした。
「その人は「私は天使じゃない、悪魔」って言ったが。俺にはどっちだって関係ない」
「…悪魔となんて一緒にたら、不幸になりますよ…」
ボソッと悠が言った。
「別にいいんじゃないか? 不幸になったて」
え? と、悠は一樹を見た。
「だって、心から好きな人と一緒なら。不幸だろうと、何だろうと。楽しいに決まっているからな」
楽しい…
そんな事…考えたことなかったけど…。
悠は病院で一樹が付き添ってくれた時のことを思い出した。
一樹は仕事の時は生真面目な感じだが。
病院では笑い話をしたり、他愛ない話をしてくれていた。
一緒にいる時間。
それは本当に楽しかった。
楽しい時間も…幸せな時間なのかもしれない…。