一樹君の恋人は天使なんです
「ごちそうさまでした」
手を合わせる悠を見て、一樹はちょっとだけまた笑った。
「こんなに美味しいもの、食べたるのは初めてと思われます」
「そうなのか? 」
「はい」
「お前、いつもメシどうしてんだ? 」
「コンビニで買っています。たまにスーパーに行きますが。そんなに料理できませんから」
「一人暮らしか? 」
「はい」
「そっか、俺も一人だ。帰国した時、弟と一緒に暮らそうって話が出たんだが。弟はもう婚約者がいて、すぐに結婚しちまったからな。結局一人暮らしになっちまったてわけだ」
「そうですか」
食後の珈琲を一口飲んで、一樹は一息ついた。
「でもまぁ、一人は気楽でいいぜ。誰にも気を使う事ないからな。家族と一緒だったり、誰かと一緒だと色々と気疲れしちまうしな」
「そうですね…。自分も、一人のほうが…楽だと思われます。…」
ふと、悲しげな目をした悠を、一樹は見逃さなかった。
「お前、家族はいないのか? 」
「あ…自分の家族は…遠い地に住んでいるので、会うことが出来ません」
「会うことが出来ない? 」
「あ、いえ。その…すぐには会いに行ける距離ではないと言うことで…」
なんとなく、どこか引っかかりを覚えた一樹だが、あえて気づかないふりをした。
悠は腕時計を見た。
「あ、もうこんな時間。遅くまで、申し訳ございません」
言いながら、悠はお財布からお金を取り出してテーブルの上の置いた。
「これ、自分の分です」
「ん? いらねぇよ、そんなの。俺が払っておくから」
「いえ。自分の分はちゃんと払うものだと思われるので」
「いらねぇって」
ちょっと強い口調で一樹が言った。
悠はちょっと驚いて、視線を落とした。
そんな悠を見ると、一樹はちょっとだけ罪悪感を感じた。
「すまん…。俺が誘ったんだ、無理に引き留めたのは俺だ。だから、俺が払うから気にしないでくれ」
なんとなくバツが悪そうに一樹は言った。
「今日は、所長にしてもらってばかりだと。そう思われるので、ちゃんと払っておこうと思ったわけで…」
「そんな事は気にすることはない。お前は、いつも頑張りすぎている。だから、たまには誰かに頼ればいいんだ。俺は、いつも感謝している。遅くまで残って、残務をこなしてくれる社員がいるから。俺も安心して、仕事ができるんだって思っているから」
「…優しいんですね…」
優しいと言われると、一樹はちょっと頬を赤くした。