一樹君の恋人は天使なんです
「それに、ちょっと気になっているのですが。悠君、どこか悪いのではないかと思いまして」
「それは、何故だ? 」
「時々、胸を押さえて苦しそうにしているのを見たことがあります。残業で1人残ている時でした。私が帰ろうとした時、とても苦しそうに胸を押さえていました。どうかしたのか聞いてみたのですが、なんともないといつもの笑顔で言われたのです。ここのところ、顔色も悪かったので気になっていたんです」
「そうだったのか。ずっと残業もしているからな、疲れが溜まっていたのかもしれない。ちょっと気をつけて見ておくよ」
「はい。でも、最近は京香さんがなんだか悠君を狙っているようです。この前なんて、仕事中に呼び出して、こっそりどこかに連れて行ったようです。その後、戻ってきた悠君が真っ青な顔をして早退したので、ずっと心配でした」
「判った。俺も注意しておくから。心配しないでくれ」
「はい…」
一樹を見つめて、美恵はそっと微笑んだ。
「所長。なんだか、とっても優しい目をするようになりましたね」
「え? そうか? 」
「はい、悠君が来てからですね。所長が優しくなってきたのは」
「はぁ…」
ちょっと赤くなり、一樹は視線を反らした。
そんな一樹を見て、美恵はクスッと笑った。
「所長って、案外分かりやすい人だったんですね」
「な、なんだ? 突然」
ちょっと意味深な笑みを浮かべて、美恵は一樹を見ていた。
なんとなく。
美恵には何かを見抜かれてしまた様な気がした一樹。
だが、この日はそれ以上の話しはなかった。
とりあえず一樹は、京香をこのままにしておいては危険だと思った。
何か対策を考えねばと考えていた。
夜になり。
一樹は仕事を終えて帰り道を歩いていた。
「兄貴」
駅前に来た時、声がして一樹は振り向いた。