一樹君の恋人は天使なんです
「兄貴、今帰りなの? 」
声をかけて来たのは夏樹だった。
「夏樹。どうしたんだ? 」
「僕も今帰りだよ。どう? 夕飯でも一緒に食べない? 」
「何言っているんだ。家族が待っているじゃないか」
「たまにはいいじゃない。兄貴が良ければだけど」
「俺は…」
ピピっ…。
一樹の携帯が鳴った。
誰だろう? と携帯を見ると、メールだった。
メールを開くと
(夕飯作ってみました。…もし、まだでしたら食べてくれますか? )
悠からのメールだった。
そのメールを見ると、一樹の表情がいっきょに微笑ましくなったのを夏樹は見ていた。
「悪い、ちょっと仕事の打ち合わせが入った。また、誘ってくれるか? 」
「うん、分かったよ」
急ぎ足で帰ってゆく一樹を、夏樹は微笑ましく見ていた。
「あの…すみません」
声がして夏樹が振り向くと。
そこには初老に差し掛かった紳士が立っていた。
高級そうなグレーのスーツに身を包んで、立派な身なりの男性。
「突然すみません。私、こうゆう者です」
男性は名刺を夏樹に渡した。
名刺には、末森昭三と書かれている。
某IT企業の取締役会長の肩書が書いている。
その名前を見て、夏樹は驚いた。