一樹君の恋人は天使なんです
「そんなんじゃねぇけど…。まぁ、その…」
「それでは、今回は所長の優しさに甘えてもいい…ですか? 」
「あ、ああ…」
ちょっと可愛くない表情を浮かべ、一樹はテーブルの上のお金を手に取り悠に渡した。
お金を渡してくれる一樹の手が、とても暖かくて。
悠はなんだか嬉しくなった。
「有難うございます。次回、ちゃんとお返しをしますので」
「次回? じゃあ、また俺とメシ食ってくれるのか? 」
「はい…」
可愛くない顔をしていた一樹が、ちょっとだけ嬉しそうな目をした。
「また…2人で会ってくれるのか? 」
「え? 」
驚いてキョンとする悠を見て、一樹はちょっと赤くなった。
「別に変な意味じゃねぇよ。…」
赤くなっている一樹を見ると、悠はなんだか可愛く思えた。
先に帰るつもりが、結局、一樹と悠は一緒に出てきてしまった。
「今日は本当に有難うございました。遅いので、気を付けてお帰り下さい」
「ああ。お前どっちに帰るんだ? 」
「自分はタクシーで帰りますので、ご心配なく」
「タクシーで帰るなら、俺が送って行く」
「いいえ、これ以上。所長の大切なお時間を、使わせることはできないと思われますので。大丈夫です」
なんとなく、ふられたような気分に一樹はなった。
「それでは、失礼します」
そっと微笑んで、タクシー乗り場へと急ぎ足で向かう悠。
一樹は悠の姿が見えなくなるまで見ていた。
「あいつ…何者なんだ? 」
遠ざかる悠の背中に一樹はそっと呟いた。
空には綺麗な月が輝いていた。
もうすぐ梅雨がやって来る今日この頃。