一樹君の恋人は天使なんです
「兄は、天使に恋をしてしまったのです。正確に言うと、天使が兄に恋をして降りてきたのです。一目会った瞬間から、恋に落ちてしまって。でも、違い世界の人で。天使は黙って、自分の世界に帰ろうとしたのですが。兄が追いかけてしまったのです。それで、兄はこの世界を離れ、貴女の住んでいた世界に行ってしまいました。父も母もすでに他界しており、私と兄とで家を守ってきていましたが。兄の気持ちはとてもよく分かるので、私は応援していました」
信じられない。
私と同じことしているなんて…。
驚いている悠に昭三はそっと微笑んだ。
「見ていると、兄と似ていますね。目元なんかそっくりです」
「はぁ…よく言われていました。お爺様に似ていると」
「はい、こうしてお会いしていると。兄と会っていうような気持ちになります」
確かにこの人の話し方は、お爺様に似ている。
笑た顔もそっくり。
でもどうして私を探しているのだろう?
「それで、貴女を探していたのは。兄から頼まれたからです。人間の世界に行ってしまった、孫を頼むと言われたからです」
「お爺様と、どうやって連絡を取っていらっしゃるのですか? 」
昭三はそっとポケットから、水晶を取り出した。
「これで連絡を取っています。と言いましても、新月と満月の夜にしか繋がりませんが。兄は、貴女をとても可愛がっていたようで。きっと人間界では、末森と言う苗字を使っていると思うと言っていました。探し続けて8年です。やっと会えて嬉しいです」
「そんなに長い月日、探していてくれていたのですか? 」
「はい。…実は、私には子供がいません。なので、貴女に是非、私の養女になって欲しくて探していました」
「え? 養女? 」
「はい、我が家系は代々続いております財閥です。後継ぎがなくて、どうしようかと悩んでいました。兄の血を受け継ぐ貴女なら、私も安心ですから」
「でも私は、ここには戸籍もありませんし。それは、無理ではありませんか? 」
「それはご心配なく。貴女の戸籍は、ちゃんと用意されています」
そう言って一枚の書類を悠に見せる昭三。
それは戸籍抄本だった。
そこには、末森昭二が結婚して子供が産まれ、その孫として悠里の名前が書かれていた。
結婚相手は外国人になっていて、ナーディの母親の名前が書いてある。
天空界の天使の戸籍がちゃんと人間界にある事に、悠は驚いて言葉が出なかった。