一樹君の恋人は天使なんです

 それから翌日。

 悠は退職手続きのため、事務所にやって来た。


 仕事ではないため、直接所長室にやって来た悠。


「これで、いいでしょうか? 」


 書類を書いて一樹に渡した悠。


 その姿は…

 いつもの男性の恰好ではなく、ちゃんと女性らしく清楚なブルー系のワンピースに白いヒールを履いていた。

 いつもしていないメイクをちょっとだけして、唇にプルッと可愛いピンクのリップを塗っている。

「これでいいですか? 」


 種類を渡して、ちょっと恥ずかしそうに悠が言った。

「ああ、完璧だ」

 恥ずかしそうな悠に、一樹はそっと微笑んだ。


「これで、悠里って名前にちゃんと戻るんだぞ」

「はい…そうします」


「それで、これからの事なんだが」

「はい」


 俯いている悠に、一樹はそっと歩み寄った。


「まず先に、これを・・・」


 一樹のポケットから取り出されたのは、指輪のケース。


 ケースを開いて一樹が指輪を見せると、悠は驚いた目をして潤ませた。


 指輪は綺麗なタイヤモンド。

 見ているだけでうっとりするくらい…。



 一樹は驚いている悠の左手を取り、中指にそっと指輪をはめた。


 サイズはピッタリで、悠の指にはまるととても輝いている。


「よかった、ピッタリで」

  
 涙ぐんだ目で悠は一樹を見つめた。


「本当に、私でいいんですか? 」

「ああ、悠里は最高の人だから」


「…嬉しいです…。母にも、ちゃんと報告します」

「その時は、俺も一緒にいていいか? 」

「はい…」


 涙がいっぱいの目で返事をする悠を、一樹はそっと抱きしめた。




 それから…。

 悠はちょっと気が引けると思ったが、他の社員達にも本当の事を話そうと決め、事務所に降りてきて男性のふりをしていた事を打ち明けた。


「…本当に…ごめんなさい…」

 深く頭を下げている悠。

 他の社員達は…。
< 92 / 104 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop