一樹君の恋人は天使なんです
事務所で挨拶を終えて、悠は昭三の処に行く為降りてきた。
一樹が送ってゆくと言ったが、仕事があるだろうからと1人で行けると言った。
事務所を出て悠が歩いて来ると。
京香が歩いて来た。
いつもの派手な格好ではなく、とても地味なグレーのワンピースに髪は後ろでまとめて、メイクも薄い。
京香は悠に気づいて立ち止まった。
悠も京香に気づいて足を止めた。
京香はじっと悠を見つめている。
悠はどうしたら良いか分からず、視線を落としていた。
「…やっぱり、私の負けなんだ…」
ボソッと呟いた京香。
「初めから分かていたけどね。…あんたが事務所に入っていた日から、ずっと私は負けているって感じていた。…」
「京香さん…」
京香はフッと笑った。
「きっと、世界中の女が競っても。誰もあんたに勝てないわ…。私はそう思っている。…だから…不幸になったら許さないから…」
スッと右手を差し出し、京香はそっと微笑んだ。
悠はその手をそっと握った。
「あんたの手、すごく暖かいのね。…いい? 宇宙で一番の幸せ者になりなさいよ」
「はい…。京香さんも、幸せになって下さい。なれますから、きっと」
「ありがとう」
以前のような傲慢さが消え、京香は随分スッキリした顔をしていた。
そんな京香を見て、悠はホッとしていた。
そしていよいよやって来た末森家。
門構えがしっかりしていて、お屋敷のように広い家。
広々とした二階建てで、お手伝いさんが3人いる。
「悠里ちゃん、よく来ていくれたね」
昭三が笑顔で迎えてくれた。
「とても広い家なんですね」
「昔は両親も一緒だったけど、今ではお手伝いさんと私だけだよ。妻は、3年前に亡くなっているんだ」
「そうでしたか…」
笑顔で出迎えてくれた昭三と、悠里は暫く他愛ない話をしていた。