一樹君の恋人は天使なんです


 一樹と似ている忍を見て、悠里はちょっとドキッとした。


「初めまして、末森悠里です」


 悠里が挨拶をすると、忍は優しく微笑んだ。


「初めまして、一樹の父の忍です。とても可愛い子で、驚いたよ。天使みたいだね」


 え?

 悠里はちょっとドキッとした。





 ソファーに座りお茶を飲みながら、他愛ない話をして空気がなじんだところで一樹が養子に行く話を持ち出した。


「父さん、母さん。俺、末森家に養子に行くから」


 一樹がそう言うと、忍も樹利亜も言葉をなくし黙ってしまった。


「いいだろう? この家は、夏樹が継いでくれればいいし。会社だって、夏樹が社長になってくれるから何も問題はないだろう? 」

 
 どこか冷たい一樹の言葉に、樹利亜はちょっと目を潤ませた。


「一樹…。ここは、お前の家だぞ。養子に行くことに、反対はしないが。ちゃんと、帰ってきてくれるか? 」


 そう尋ねる忍の目もちょっと潤んでいた。


 そんな忍を見て、一樹はどこか罪悪感を感じたのか、フイッと目を反らした。


「一樹。父さんも、母さんも。お前の事を、愛している。だから、家族がいない事はずっと寂しかった。アメリカに行くことも、本当は反対したかったが。お前が成長する為だと思って黙って行かせた。帰国したら、この家に帰ってきてくれると思っていたが。お前もやりたい事があるのだと思って、自由にさせていたんだ。いつか、心から愛する人を連れてきてくれるその日まで、待っていようと母さんとも話していたんだ」


 フイッと目を反らしていた一樹が、ギュッと口元を引き締めた。


「…一樹…。ずっと、夏樹に遠慮していたのお母さんも知っていたわ。夏樹は小さな頃、病弱だったから。守ってくれたいたことも、分かっていたのよ。甘えたくても、できなくて、貴女がずっと我慢していたのも知っているわ。…ごめんなさいね、もっと、小さな頃に抱きしめてあげたかったのに。できなくて…私が、夏樹の事をもっと丈夫に産んで上げれていたら。ちゃんと、貴方の事を抱きしあげれたのだけど…」


 グッと何かが込みあがってきて、樹利亜は泣き出してしまった…。

 忍はそっと樹利亜を慰めた。


「一樹。夏樹が言っていたよ、兄貴には申し訳ないって。でも、夏樹はお前が羨ましと言っていた。誰よりも優しくて、自分に正直なお前が羨ましくて尊敬しているとな」

「…何言ってるんだ…俺なんか、夏樹に比べたら…」


「お前と夏樹を比べたことなんて、一度もないぞ。お前はお前、夏樹は夏樹。それぞれの個性があり、お前も夏樹も素晴らしい息子だと信じている。だから…お前とは本気で喧嘩も出来たじゃないか」


 喧嘩…
 そう言えば、父さんとは取っ組み合いの喧嘩もしたなぁ…。

 ちょっとだけ、一樹の中で忍に対して罪悪感が湧いてきた。
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