秘密の恋はアトリエで(後編) 続・二度目のキスは蜂蜜のように甘く蕩けて
「いいの? ぼくの話を聞かないと、〝靭にいちゃん〟が困ったことになるけど」

 その言葉に耳にして、振りむかざるを得なかった。
「今、なんて?」

「〝(ゆき)にいちゃん〟が困ったことになるって言ったんだよ」

 なんで北川が知っているのだろう。
 わたしが靱にいちゃんって呼んでることを。
 それって、つまり、靭にいちゃんとわたしの関係を知っているってこと?

 足元がぐらつくような、心もとない気持ちに襲われる。

「わかった……じゃあ、話を聞かせて」夏瑛は固い声でそう返した。

「まあ、そうあせらないで。とりあえず、あそこに座ろうよ」

 北川はあくまでもにこやかな表情を崩さず、奥に置かれた椅子を指差した。

 アトリエの空気が淀んで、夏瑛の全身に絡みついてくるように感じる。
 靭也とふたりでいるときとはまるで違う空気だった。
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