秘密の恋はアトリエで(後編) 続・二度目のキスは蜂蜜のように甘く蕩けて
「その人が、今度、夏瑛を連れて行く店のオーナーの中村さんだったんだ。とりあえずおれの店に来いって言われて。それで、飯おごってくれて、いろいろ話しているうちに、バイト代はほとんど出せないけど、行く当てがないんだったら店を手伝ってくれないかって誘ってくれた。寝る場所と賄いは確保できるぞって。
 本当に感謝したよ。どこの馬の骨ともわからないおれを信用してくれたんだから」

 靱也は一旦話を切って、一瞬遠くを見つめた。当時のことを思い起こしていたのかもしれない。

「で、あとで聞いたら、今にも川に飛び込みそうに見えたんだって。そのまま見捨てて、翌朝、川にでも浮かんでたら、寝ざめが悪いと思ったって。こっちはそんな気、まったくなかったんだけどね」
 
 夏瑛は靱也の肩に頭を預けた。

 靱也は腕を回し、夏瑛の髪を指で優しく()いた。
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