優秀高場
第二話 全寮制の男子校

 俺は高校生になった。学校は、小学校から同じ顔ぶれで物珍しさはない。

 俺の学校は、小学校から全寮制だ。
 普通の学校と違うのが、長期休みでも地元に帰る事が殆どない。小学校の頃は、寂しくて泣くやつも居たが、中学校にあがると学校の寮に居たほうがいいと思えてくる。
 俺たちは、世間で言う”上流階級”の子息だ。議員の息子なんて当たり前で、世界的に有名な企業の会長の息子(庶子)なんかも当たり前のようにいる。俺は、とある大学の理事長を務める父親の3番目の息子になる。

 それで、なんで皆がこの寮が”楽”だと思えるのかというと、この寮は父親たちや実家からの資金で成り立っている。
 それに卒業生からの寄付金もすごい金額になっているようで、好きな物。欲しい物がなんでも手に入る。さすがに小学生の時はダメだったが、女が欲しいと言えば、女さえも用意される。男が好きという奴も居て、その場合でも依頼を出せば用意されるのだ。
 食事も遊び道具も女も好きにできる。実家では、3番目の息子なんてスペアのスペア程度にしか思われていない立場だ。小学校に上がる前に、父親に会った時も、会ったのも一瞬でよく覚えていない。母親なんて顔も思い出せない。家に来ていたメイドの娘(後で知ったのだが、腹違いの妹)とはよく遊んだ記憶がある。その程度の家にいるよりも、好きな事ができる場所にいる事を望むのは当然のことだろう。

 小学生のときには、4人部屋だったのだが、中学生からは一人部屋になる。
 高校からは寮の場所が変わると説明されている。防音がしっかりしていて、今の部屋の2倍の広さがあるらしい。そこには、女を囲い込んでも大丈夫だと言われている。俺は、奴隷のような女を頼んでいる。
 リストが来て、その中から選べという事だ。他にも、希望者がいるかもしれないので、早い者勝ちとなるらしい。身の回りの世話をさせて、下の世話をさせる女が手に入るのだ。

 俺の身の回りを世話する女は、処女の日本人を要求した。どこかの児童養護施設で育ったらしい奴で無口だ。
 犯した時にも何も言葉を発しない。乱暴にしても同じだ。どんな理不尽と思える命令にも唯々諾々と従うだけだ。

 奴隷には首輪をつける事になっていて、首輪で俺の持ち物だと識別ができるようになっている。

 この寮に居る限り金を使う必要もない。
 本当に天国のような所だ。

 高校一年の一学期が終わった。
 同学年が集められた。なんでもできる学校だが、教師の命令は絶対なのだ。殴られる事もある。だからというわけではないが、教師に逆らう奴は居ない。最初に逆らった奴が居るが、すぐに従順になる。俺は、最初から教師には逆らわない。そのかわり、奴隷に暴力を振るって気分を紛らわす事にしている。ストレスは溜める物ではなく発散するものなのだ。
 俺ではなくが、同級生で奴隷を数人ほど殺している奴もいる。しかし、警察が来る事もなく逮捕される事も寮から追い出される事もない。ただ、処理のために暫くは奴隷の手配がされなくなったり、要求した物が届くまでに時間がかかるようになる。

 世の中、上流階級の子息には優しく甘くできているようだ。
 俺達はこの学校で人の使い方を学べばいいという事だ。勉強も自分が好きな事を伸ばせばいい。中学までは通り一遍の授業が行われたが、高校に入ってからは、何か一つでも飛び抜ければ問題ないと説明された。
 どんな事でもよくて100名の中でトップを取れる物があれば要求を叶えられるという事だ。

 二学期からは、毎月、自分がトップを取れるであろう試験を申請して、試験が行われる。トップの項目の数だけ要求ができるようになるという事だ。
 全員が違う事を考えれば、100個の試験が行われる事になる。誰かが申請して、学校が認めた物がテストとなって行われる。自分がトップになれる試験を考える必要があるのだ。

 俺は幸いな事に記憶力には自信があった。
 記憶力を必要とするテストが多い事もあり、俺はトップを3つ取る事ができた。ようするに、2人からトップを奪い取ったのだ。

 3学期が終わる頃には、この学校でもカーストが形成されてきた。
 俺のように優秀な者は、配下を持つ事ができた。自然とそういう風になっている。配下の者を使って、俺がトップを取りやすそうな試験を作っていく。そして、俺がトップをとって、配下たちに還元する。配下からは、要求が必要がない項目を取らせて、俺に貢がせる。このサイクルが出来上がっていく。
 俺の派閥は、配下7名の中堅だ。一番大きい所は、配下22名だ。次に配下13名が続いて、配下12名が居て、俺の配下7名だ。次は、配下5名で、それ以下は2人でつるんでいたり、3名でつるんでいるだけの奴らだ。

 二年に上がる時に、また引っ越しが行われる。
 今度は、大きな敷地内にいくつかの建物が立てられている場所だ。
 派閥ごとに建物が選べるという事だ。

 俺は、最大派閥の奴に請われて。一緒の寮に入る事になった。

 数は、そのまま力になる。
 俺達が入った寮は、キャパは50名の一番大きな所だ。派閥の人数は、配下29名。俺と奴を足しても、31名だ。大きな部屋が二部屋独立してあるのも気に入っている。

 ナンバー2とナンバー3が手を組んだ場合に、人数はナンバー1を超える配下25名となる。そのために、ナンバー1は、俺か次の派閥を引き入れなければならなかった。
 俺の次の派閥は5名しかしない。これでは、配下27名にしかならない自分たちを入れても29名だ。これでは、俺がナンバー2と3の派閥に合流したら力関係が逆転してしまう。13と12と7で配下33の派閥が出来上がる。自分たちを数えると、36名になるからだ。
 ナンバー1は、頭の切れる男だ。
 俺を引き入れる事で、数の差を最小限に抑えようとした。

 俺が参加した事で、31名の派閥になる。
 ナンバー2と3は、ナンバー5を引き入れたとしても、配下30名で合計33名となる。しかし、ナンバー5は、派閥には参加しないで、小さな6名用のログハウスで独自路線を貫くようだ。

 このような体制ができた事で、俺達の派閥への参加も増えてきた。

 そして、高校二年の二学期が始まった。
 長期休みが必要ない学校なので、一年を3つに区切って学期を作っているだけだ。4月始まりで、8月からが2学期だ。

 ここで事件が発生した。

 ナンバー1の配下の一人が失踪したのだ。
 俺達も手伝って探すが、敷地内から外に出られない事から、他の派閥に拉致監禁されているのではないかという事になった。そして、数日後にナンバー2と3の所から配下が一人ずつ失踪した。
 ナンバー2と3は、俺達が拉致監禁したと見ているようだ。この情報を持ってきたのは、泡沫派閥の者で俺が買収した者だ。簡単に言えばスパイだ。相手が考えている試験内容を先に知る事ができれば、俺達の誰かがそれを覚えれば相手にダメージを与える事ができる。

 また数日後に、学校側から情報が伝えられた。
 3人の生徒の死亡が確認されたという事だ。殺害方法は集団暴行だという事だ。そして、不思議な内容が通知される。
 生徒が属していた派閥の者一名に生徒が持っていた物を引き継ぐという事だ。物の中に知識という項目が入っていた。一人が相続する事になるようだ。スパイからの情報が入って、ナンバー3は自分が相続する事にしたようだ。
 そしてナンバー3が学校から指定された場所に赴いて帰ってきたら、死んだ生徒が得意だった物理学を習得していたのだ。やり方は本人も解っていなかったようだ。ただ、学校側から指定された飲み物を摂取して、少し身体がだるいなと思ったら、今まで苦手だった物理学が解けるようになっていたということだ。

 この話がスパイから伝えられると、ナンバー1は自分で相続する事に決めたようだ。ナンバー2も同じ様にした。
 3名が死んだ事で、試験が減るかと思ったが、減らなかった。最期に出した試験が継続されると発表された。

 派閥の数が減っても、俺達の力関係はさほど変わりがないという事だ。

 そして、殺害方法が詳細に発表された。
 ナンバー1配下はナンバー5の奴らに拉致監禁されて殺された。殺害の理由は、配下のメンバーが、ナンバー5の奴隷を施設内で犯したのが原因だ。ナンバー2と3の配下を殺したのは、ナンバー1の配下の一部とナンバー5の配下だ。スパイを介して繋がっていたようだ。

 すぐに、ナンバー2と3から抗議が来るが、ナンバー1は黙殺した。これ以上何か言ってきたら全面攻撃に出ると脅しをナンバー5に告げて自然と声が耳に入るようにした。ナンバー5がナンバー1の配下を殺した事に関しては、ナンバー1と5で同意をとっていたようだ。

 形式的には、ナンバー1がナンバー5を使って配下を殺させた様にも見える。
 ナンバー2と3は、この件を使って配下の揺さぶりを仕掛けてきた。ナンバー1は追い込まれて居た。自分で武装し始めたのだ。自分の身は自分で守るかのようになっている。ナンバー1の配下は、そんなトップには頼れないと、逃げ出そうとするが、配下の一人で逃げ出す派のトップが粛清された事で声が小さくなった。
 代わりに、俺に武装を要求して欲しいと依頼する様になった。
 俺は、ナンバー1の配下の要求を聞き入れて、全員分の武装・・・銃・・・を用意した。ただし、弾の数は少なくした。俺に銃口を向けられても困るし、戦いになるとどうなるかわからないからだ。弾は試験の後で要求してもらう事になった。

 三学期が始まる一つ前の試験のときに、ナンバー2が何者かに殺害された。遺産は、ナンバー3が引き継いだ。
 三学期に入ってからすぐの試験で、ナンバー1が配下の者に殺害された。配下の者は、そのままナンバー5の下に参加して、ナンバー1の遺産を持参金代わりにしたのだ。

 ここで、完全に派閥が崩れ去った。
 誰かが自分の命を狙っている。そんな状況が作られてしまったのだ。

 俺も学年のトップを争う一人になっている。
 こうなってみてはっきりと解る。夜寝るのが怖い。一人でいるのが怖い。2人以上になるのが怖い。

 いつ殺されるのか?誰が味方で、誰が敵なのか?配下の者たちはいるが、いつ裏切っても不思議ではない。俺を殺して、俺から全てを奪えば、そいつが翌日からトップの一人になれる。

 全員が敵なのか?
 奴隷も抱けなくなっている。落ち着かない。ナンバー2は、奴隷だけを複数抱えて部屋で籠城したのだが惨殺された。犯人は、ナンバー5の配下の者だ。殺害方法は公表されていないのだが、ナンバー2の遺産を引き継いで、ナンバー1になったのがそいつだから間違いないだろう。しかし、そいつも翌日にナンバー5によって殺害された。

 俺は、相対的にナンバー3か4になれるように調整している。
 上になった者と形だけでも同盟を結ぶ事を繰り返している。俺は生きて卒業する。

 100名居た同級生も、昨日で43名まで減っている。いや、昨日俺が殺した奴がいるから、42名だろう。

 3年生に上がってすぐに学校から宣言がなされた。
 学校から卒業できるのは一人だけだと。それから、3年生の授業と試験は全て学校側が決定するという事だ。

 上流社会で必要になるマナーや言葉遣い。所作やお茶や芸事まで試験は多岐に渡った。
 今までの知識が一切役立たない。これらの事に精通していた奴らも居たが、すでに誰かに吸収されている。そいつらを殺して知識を奪うしか無い。殺す方法を考えると同時に、学校が出してくる試験内容に関しても覚えていなかればならない。
 3年生の試験からは、学校側が指定する人数しか次のテストが受けられない。処分されるのだ。殺して奪うには、リスクがあるが、殺さなければ覚えるしか無い。覚える自信がない者は殺して奪う。その知識を持っている事を隠しながら生活して生き残るために殺しと勉強を行い続ける。

 ここではそれが当たり前だ。
 俺達は選ばれた者たちで、上流社会の者たちだ。弱い者から搾取してなにが悪い。命さえも同じだ。

 でも、俺は三年の2学期が始まるのを知る事が出来なかった。
 殺されてよかったとは思わないけど、なんか疲れたのも事実だ。負け惜しみではない。俺は疲れたのだ。
< 2 / 3 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop