この男、危険人物につき取扱注意!
(坂下が…うさぎを好き…
いつから?
彼奴、俺に何にも言わず…このまま側に居るつもりなのか?
それとも…俺を出し抜こうって魂胆か?
ぜってぇ…そんな事はさせない!)
「坂下!坂下‼︎坂下何処にいる⁉︎」
屋敷の何処にいるか分からない坂下を、春樹は大声で呼びながら探し歩いた。
「…若?…私ならここにいますが?」
何も知らず居間の片付けをしていた坂下は、ひょっこり廊下へ顔を出した。
(こんな所に居やがって‼︎)
「お前に聞きたい事がある。
これから聞く事に、正直に答えろ!
俺とお前の立場がどうとか、面倒な事は一切関係ない男同士の話だ!
良いな⁉︎」
「…若、どうしたんですか?」
「良いから、分かったか⁉︎」
「…はい」
春樹は一度深呼吸して話し始めた。
「…お前…うさぎの事どう思ってる?」
「え?」
「怒らなねぇから、正直に答えろ!」
春樹の全てを把握していると思っていた坂下だったが、この質問の意図だけは判らなかった。
「若は私に何が聞きたいんですか?」
「お前の気持ちだ…うさぎが好きか?」
「まぁ…好きです」
「やっぱりか…」
春樹は眼を瞑り一瞬穏やかな表情を見せたが、直ぐに眼を開けると眼鏡を外した。
そして「坂下、庭に出ろ‼︎」と声を荒げた。
しかし、坂下は春樹の心情など知る由もなく、ただ驚くばかりだった。
一向に立ち上がらない坂下に苛立ち、春樹は坂下の胸ぐらを掴み上げた。
春樹は眉間に大きなシワを寄せ、目尻は吊り上がり額には今にもブチ切れそうな青筋を立てていた。
「っ若、落ち着いて下さい!
好きか嫌いかと言われれば、好きだと言う程度です!」
頭に血が上っている今の春樹の耳には、坂下の言葉は届いていない様で、凄まじい顔をしていた。
学生時代の春樹は、一度火が付いたら腕っぷしの強い男数十人がかりでも、止められないくらいの野獣そのものだった。
そんな春樹を変えたのは、この坂下であり鍛えたのも坂下だった。
「落ち着け春樹!」
坂下のすごみを利かせた声に、血走っていた春樹の瞳は次第に穏やかさを取り戻していった。
「俺はお前の盾だ。敵ではない」
「…坂下」
「彼女は、若が言う通りの女性です。
心優しく思いやりがあって、強い芯を持ってらっしゃる。きっと、組長も気に入ってくれるでしょう?
少し無鉄砲なところはありますが?
そこも…彼女の良いところだと私は思います。
若同様、全力でお守りします」
「坂下…おまえ」
(ありがとう…坂下)
だが、この時既に千夏に危険が迫ってる事に、二人はまだ気が付かずにいた。