この男、危険人物につき取扱注意!
『静かに、もっと静かにお願いします。
足音立てないで下さい』
拡の囁き声に誘導され、幾人かの苦痛を耐える息づかいとすり足の音が聞こえて来た。
そして、春樹達の前に現れたのは、家具の配達には似つかわしくないスーツ姿の男達だった。
(ん?)
春樹は彼等に疑いの眼差しを向け右足を半歩前に出し身構えた。
すると、坂下がすかさず春樹の前へと出た。
坂下の強ばった顔つきに全てを察した拡は慌てて「ダブルチェック済みです!」と答えた。
そして、配達員の中でも少し年配の男が恐る恐る一歩春樹達の前に出ると「あ、わ、わたくし…☆の○家具、店長の…と、所坂と申します。こ、この度は当店でお買い上げ頂き…ま、誠にありがとう御座います」
男は、顔を汗だくにし震えた声で答えた。
(随分肝っ玉の小さい男だな。
いい歳して自分が震えてちゃ、したのもんまで不安がる事ぐらい分かんないものかね?
まぁ仕方ないっていやぁ、仕方ないんだろうけど…
配達先で身元確認やボディーチェックされりゃな…
確かにやり過ぎ感はあるが、なにしろ西の動きが気になるから、これくらい用心した方が、今はうさぎもいる事だし…)
そして、支店長は慌ててポケットから名刺入れとハンカチを出すと、額の汗を拭い「こ、今後ともよ、宜しくお願いします!」と名刺を春樹に差し出した。
「これはご丁寧に…
下のもんが不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした。
先日、屋敷に泥棒猫が入り込みまして、ちょっとばかり騒がしくなったもので、用心に越した事はないと思いましてね」
と、春樹が話して聞かせた。
「タチの悪い輩が多くてこま…あっすいません…
あ、あの…ベッドはどちらに…」
怯えながらも笑みを見せる店長所坂だった。
「この部屋でお願いします。
隣の部屋には病人が寝てますので、出来るだけ静かに作業して下さい」と言う春樹。
「…はい。…組み立てが終わりましたら、お知らせしますので…配置だけ教えて頂けば…」と、言いながら所坂は滝の様に流れ出る汗を拭いていた。
(クソ暑い中、スーツなんかでくるからだ。
それとも恐怖心からの冷や汗か?)
「暑いですよね?
上着、お預かりしましょう?」
春樹の申し出にも、所坂はブルブルと首を振った。
「い、いえ…だ、大丈夫です」
「そうですか?」
「では、早速作業をお願いします。
組み立ては部屋の真ん中でして頂ければ、後はてまえどもでいたしますので」
坂下がそう言うと所坂店長は「え!…」と声を上げた。