この男、危険人物につき取扱注意!
(小野田家も貧しい訳じゃないけど、ここまでのモノを買うほど裕福ではない。
この人は買えちゃうんだろうなぁ…
まぁ坂下さんの手ならこのくらい大きな石の方が良いのかもね?)
「…チーフ…買うんですか?」
「ああ」
(ああって…
昼間は稼ぎが悪い様な口ぶりだったのに…
まるで飴玉でも買う様に買っちゃうんですね?
はぁ…なんか見方変わっちゃうなぁ…
これがあのチーフだなんて…)
「うさぎ、この中から好きなの選べ!」
(へ?)
「気に入ったものがあったら、一つと言わず二つでも三つでも良いぞ?」
(はぁ?なに言ってんのこの人?
こんなに大きな石、一ついくらすると思ってるの⁉︎)
「あの…何を仰ってるのか…まったく話しが見えませんが?」
「婚約指輪、まだだったろ?
どうせなら、気にいる指輪がいいと思ってな」と言う春樹。
(あー婚約指輪ね!って…こんな高価なモノ私が買って貰えるか!
値札付いてないから分かんないけど、絶対バカ高いヤツじゃんコレ!
店が店なんだし、絶対そう!
…そうじゃなくて…値札に関わらず私が買って貰うのはおかしいでしょ!
何考えてるの⁉︎)
「恐れ入ります、お手を拝見しても宜しいですか?」
と、店長は千夏へ微笑を向ける。
(え…手?)
「あ、ち、違うんです…」
(私じゃ無いんだって!
私は坂下さんの代役なの!)
店長は千夏の言葉など気にする事なく、さらに微笑みを向けた。
(…どうしたら良い…?
ここでニセモノだって言ったら、チーフに恥かかせちゃうよね?
はぁ…)
千夏は春樹に恥をかかせられないと思い、仕方なく店長へと手を出した。
だが、千夏は何故か手相でも見て貰うかの様に両掌を出していた。
すると店長はクスッと笑い、千夏の左手を自分の左手掌に乗せた。
「白魚の様な指でいらっしゃいますね?」
「え?」
「あ、ごめんなさい。今の若い方は白魚の様な指なんて言っても分からないかしら?
細くて綺麗な指って事なんですよ。
見たところサイズは…7号でしょうか?」
(7号…?)
「さ…さぁ…指輪なんて買った事も嵌めた事も有りませんから…サイズなんて…
ってか、ちょ…ちょっと待って!
私の指のサイズなんてどうでもいいです!」と、千夏は慌てて手を引っ込めた。
「え?」
「あ…じゃなくて…
少し待ってて下さい!
もう一人連れを呼んで来ますので!」
「お、おい!」
千夏はそう言うと呼び止め様とする春樹を無視して、部屋のドアを開け慌てて出て行った。
そして店の外へと飛び出すと、車の側で待ってる坂下の元へと駆け寄った。