この男、危険人物につき取扱注意!
千夏は琢磨の腕を振り払い、真っ直ぐ琢磨を見据えた。
「…知ってたの?
琢兄は、チーフがDOYの社長だって知ってて、今まで私に黙ってたの…?」
「ああ。だが、ヤクザとまでは知らなかった。
俺達も騙されてたんだ」
(俺達も?
もしかして…お父さんやお母さんも…知ってたの?)
「小野田さん違います!
今は社長のお父さんが組長なんで…
でも会社とは全く別もので、DOYは収入源なんかじゃありません!
それに、社長は足を洗う準備も進めてます!」と言ったのは副社長の代々木代だった。
(足を洗う…それって…)
木ノ下からいつも漂う威圧感は一切感じられず、今まで見せたことのない弱々しい声で「代々木代、もういい。やめろ」と言った。
(なに…その弱々しい声…?
ヤクザだろうと自分が間違った事してないなら、毅然とした態度で居てよ!
私…あの時の言葉が有ったから…
ここまで頑張ってこれたのに…)
「でも社長!」と言う代々木代に、木ノ下は首を振って話を遮った。
「お兄さん達が心配するのも当然の事だ。うさぎ、お兄さん達とこのまま帰れ」
「…でも、伊藤さんと間野さん二人も居ないのに、私まで帰ったら?」
「心配しなくても俺がなんとかする」
千夏は自分の存在を訴えるが、木ノ下は顔を背けたまま千夏を見ようともしなかった。
「千夏のやってる仕事なんて、誰でも出来る仕事だろ?」
そう言ったのは琢磨だった。
(琢兄はそんなふうに思ってたんだ…?)
琢磨の言葉に、ショックを受けた千夏は下を向いた。
そして、「…誰でも出来る?」と、千夏はか細い声で聞いた。
「だってそうだろ?
パソコンなんて触った事さえ無かったお前が、出来てた仕事だろ?
そんな誰でも出来る仕事なら、代わりなんていくらでもいるだろ?」
(誰でも出来る…?
その通りかもしれない…でも…)
琢磨の言葉に、下を向いていた千夏から一粒の涙が落ちた。
だが、それに気づいていない信二は、千夏に追い討ちをかけたのだ。