極上弁護士の耽溺プロポーズ
今日一日、おとなしく寝ていられなかったわたしは、あれこれとこの家の家事をしていた。

週に二度、ハウスキーパーの入る室内はほとんど手をかけるところはなかったけれど、入院中からたくさん世話になったから少しでものお礼のつもりだった。

わたしは大学入学を機にひとり暮らしをしていて、家事は一通りこなせるし、料理もそれなりにできる。

柊一くんは次々とダイニングテーブルに並べられていく料理を見つめながら固まった。

「あ、何か食べれないものでもある?」

「いや……ちょっと感動した」

胸を詰まらせたような声を出した柊一くんに、わたしは苦笑いする。

「大袈裟だなあ。わたし、ここで一回も作らなかった?」

なんとなく、恋人同士だったなら何度かここで手料理を振舞ったのではないかと思った。

けれど訊きながらも、実のところ、料理をしたのは懐かしい気分だった。

働き出してからここでどころか自分の家でさえまともにキッチンに立ったことなんてなかったのかもしれない。

柊一くんが感動したと言うくらいだから、きっとそうだろう。

「……」

「柊一くん?」

「……ああ、先に着替えてくる」

柊一くんは、わたしにはよくわからない考え込んだ顔をしていた。

けれどわたしはダイニングルームを抜けていった柊一くんを気にかける余裕もなく、それよりも柊一くんにどう切り出そう、と違うことを思案していた。
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