極上弁護士の耽溺プロポーズ
午後は使いものにならなかったと思う。

それでも夕刻になって電話がけたたましく鳴り出すと、わたしが対応しないわけにはいかなくなった。

柊一くんのお父さんは今日もほとんど事務所にはいないし、戸川さんも藤山さんも接客中だ。

手が空いているのはわたしだけだった。

「……はい、加賀法律事務所です」

緊張しながら受話器を上げて、右手でペンを取った。

その瞬間、思いがけないほどの怒声を浴びせかけられる。

「加賀柊一っつう弁護士を出せ! こっちは一円も回収できてねえってのに破産申し立てなんてされたらたまんねえんだよ!」

あまりの勢いに声を失っていると、いつの間にか戻ってきた柊一くんがわたしの手から受話器を取り上げた。

「あっ……」

柊一くんはわたしを安心させるように微笑んで、すぐにその電話の応対をする。

「し、椎葉さん、これは一体……」

わたしは一緒に帰ってきた椎葉さんを振り返った。

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