極上弁護士の耽溺プロポーズ
「どうやら先日相談を受けたクライアントの相手方からみたいですね。破産申し立てや債務処理を受任したときは、そのクライアントがお金を借りていた高利貸しや街金から、こういった物騒な電話がかかってくることもあるんですよ」

「……そうなんですか……」

昨日柊一くんが弁護士の仕事を泥臭いと言っていたことを思い出す。

人の揉め事に関わることがどれだけリスクがあることなのか、わたしはそれを垣間見た気がした。

「けれどこのくらいのことで怯んでいたら、ここでは電話応対も務まりませんよ」

「……っ」

冷たく一蹴されて口ごもってしまう。

何も言い返せなかった。

「大丈夫か? 怖い思いさせてごめんな」

柊一くんは電話が切れると、わたしを気遣ってくれた。

優しく、子どもにするみたいに頭を撫でられる。

「別になんでもないっ……」

わたしは引き攣った顔で柊一くんの手を振り払った。

「光希?」

ここにも、自分の居場所はないと悟る。

自分の職場にも確固とした居場所なんかないのに、昨日今日やってきた柊一くんの事務所にそんなものがあるはずがない。

そんなことはわかりきっているのに、それでもどうしようもなく悲しかった。
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