極上弁護士の耽溺プロポーズ
気がつくと、わたしは先日自分が事故を起こした交差点に立っていた。

Y形の平面交差点。信号も横断歩道もきちんと整備されている。

立っていられるのが不思議なくらい足が震え出した。

血の気が引いた顔で、わたしは電信柱に寄りかかる。

――全部、思い出した……。

わたしは不注意で事故に遭ったんじゃない。

ついこの間まで付き合っていた彼氏に、二股をかけられていた。

彼氏がわたしの後輩とも関係があることを知ったわたしは、短絡的にもふらふらと車の前に飛び出したのだ。

特別死にたいと思ったわけじゃない。

初めて付き合った彼氏に裏切られ、ただ何もかもどうでもよくなった。

自分なんていてもいなくてもどうでもいい、誰も自分なんか必要としてくれないと悲観して――。

記憶の重さに心が砕けそうになった。

まざまざと彼との思い出が走馬灯のように去来する。
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