極上弁護士の耽溺プロポーズ
何も言い返せなくなった。

言葉が出なかった。

それでも柊一くんは独りよがりで身勝手すぎる。

わたしの気持ちなんて考えていない。

柊一くんはそれで自己完結できても、この数日間、わたしは本当に柊一くんのことを好きだと思っていたのだ。

「……まさかこんなにうまくいくとは思わなかったけどな」

自分の浅はかな謀を嘲笑しているのか、わたしが簡単に騙されたことを笑っているのかわからなかったけれど、柊一くんは薄く笑みを浮かべた。

その表情に胸が苦しくなる。

つかの間の恋人の真似事に、柊一くんは何を得たのだろう。

わたしが柊一くんに惹かれていたことも全部幻だったのだろうか。

緊迫した空気を切り裂くように、柊一くんのスマートフォンが鳴り響いた。

いつまでも止まないコール音に、柊一くんが画面を一瞥する。

「……椎葉だ」

「そう……。わたし……出て行く。もう柊一くんの顔なんか見たくない……!」

引き攣れた叫び声を上げて踵を返すと、その弾みで足がよろめいた。

倒れ込みそうになるわたしの体に柊一くんの腕が全速力で伸びてくる。

「光希……!」

「触らないで……!」

わたしはそれを振り払い、柊一くんのマンションを飛び出した。


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