白雪姫に極甘な毒リンゴを 2 (十環の初恋編)
信じていた人に捨てられたのは
これで2度目。
1度目は、小1の時。
大好きだった母さんに捨てられた。
あの時に、学んだはずだった。
大事な人から裏切られることが
死にたいほど辛く苦しいことだって。
俺は生まれる前から
父親なんていなかった。
母さんはシングルマザーで
俺を産んだらしい。
俺は母さんと二人暮らしだった。
本当の父親が誰か俺は知らないし
知りたいとも思わない。
まだ幼稚園の俺に
『十環は私の宝物』と言って
数えきれないくらい
抱きしめてくれた母さん。
その時の母さんの笑顔が優しくて
俺はその笑顔を見たさに
母さんの言うことは何でも聞いた。
母さんに会いに
男の人がアパートに来た時には
「外で遊んでいて」と言われ
追い出されていた。
でも
アパートの階段下で待っている俺を
迎えにくるお母さんは、いつも優しくて
寂しくても我慢をして
言うことを聞いた。
お母さんは情緒不安定になると
すぐに俺を叩いた。
気のすむまで、何度も何度も。
『十環なんか、いなければ良かったのに』と
わめきながら。
痛くて、悲しくて
耐えきれなかった。
でも
母さんは落ち着きを取り戻すと
いつも抱きしめて謝ってくれた。
『十環、ごめんね。
十環はお母さんの、宝物だからね』って。
そうやって抱きしめられるたびに
思っていたんだ。
俺、母さんのことが、大好きだって。