【短編】澱(おり)
あとで母から聞いた話だが、家を売ったお金が、母と私に対する、父からの慰謝料ということだったらしい。

あんな恥ずかしい場所ではもう暮らせないし、学校に行けなくなった私のこともあったため、別の場所にアパートを借りて、心機一転しようと考えたのだそうだ。


それから春休み中に母の地元に引っ越し、誰も知らない場所で、私はどうにか中学に通い始めることができた。



別に圭吾は何も悪くない。

それどころか、私たちは、共に被害者だ。


けど、でも、圭吾のことを思い出すと、一緒にあの頃のことが蘇ってくるから辛かった。


父も、圭吾の母も、いつも優しくて、楽しく笑っていたはずだったのに、なのにすべてのことが偽りだったと知り、記憶が真っ黒に塗り潰された。

だからもう、忘れることでしか、私は顔を上げられないの。

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