【短編】澱(おり)
「話が重すぎて、私まで泣いちゃいそう」
翌朝、登校してきた私は、結衣に捕まり、そのまま非常階段に連れ込まれた。
そして昨日のことに対する説明を求められ、観念してすべてを話した。
すでに1時間目は始まっていたが、とても授業に出られるような状態じゃない。
「ね? だから、昨日のことは悪かったと思うけど、そういう事情だから、もう二度と圭吾とは会いたくないの。わかったよね?」
強く言った私に、しかし結衣は不満そうな顔。
「でも、圭吾くん、沙奈のこと心配してたじゃん」
「そりゃあ、まぁ、あれから一度も学校に行かないまま、急に引っ越したしね」
「だからこそ、圭吾くんも沙奈と話したかったんじゃない?」
「今更、私たちが何を話すっていうの?」
言葉を返した私に、結衣は肩をすくめて見せるだけ。
奇しくも明後日はバレンタインだ。
だから余計に、あの頃のことを思い出してしまうのかもしれない。
「けど、やっとわかったよ」
「何が」
「沙奈が、モテるくせにかたくなにカレシ作らなかった理由」
「は?」
「親のこと、トラウマになってんじゃないの?」