【短編】澱(おり)
「俺らは家が隣で、親同士が仲よかったから一緒に育って、でもあんなことがあったから離れ離れになって。で、俺らがふたりだけで笑った時間も、親のことと一緒に消えんの? それは別の話じゃねぇの?」


急激に強くなった雨が、容赦なく私たちを打ち付ける。


私は圭吾の問いに、何も返せなかった。

だから今度こそこの場を立ち去ろうと思って、でもさんざん逡巡した後、



「きて」


と、私は圭吾の腕を取る。


そのまま圭吾を引っ張るように走り、道路を越えて、アパートの軒下に入った。

真冬の夜に雨に打たれ、寒さで震えてくる始末。



「入って」


仕方がなく私は、自宅に圭吾を招き入れた。



「右が私の部屋だから。タオル取ってくるから待ってて」


脱衣所からタオルとドライヤーを手に自室に向かうと、圭吾はどうしたものかというような顔で立っていた。

タオルを投げる。



「上着、ハンガーに掛けといて。暖房つけるから、それで少しは乾くと思うし」


コートのおかげで下の服は濡れずに済んだが、しかし髪なんかはぐしゃぐしゃだ。

ふたりで交互にドライヤーのあたたかな風を浴びているうちに、何だか怒ってばかりいるのもバカらしくなってきた。
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