【短編】澱（おり）
本当に。

私はあれから、母に頼りっぱなしだ。



「あの頃はすごい泣いてたのに、私が部屋から出なくなって、嫌でも強くならなきゃいけなかったんだろうね。お母さんだってあれから大変だったと思うけど、愚痴とか聞いたことないし。そういうのは、申し訳なかったなって」

「まぁ、色々と気にするよな、片親になると」

「でも最近、お母さん、恋人っぽい人がいるような気がするんだよね。たまにこそこそ電話してるし」

「へぇ。いいじゃん」

「あれだけお父さんのことで泣いてたのに、また新しい人と恋愛できるってすごいなとか、前に進めてないのは私だけかなとか思ったりもするけど、でもお母さんはお母さんで幸せになってほしいから、もし相手の人を紹介されたら、複雑だけど反対はしないかなって感じで」


そこまで言ったあと、圭吾とあまりにも普通に話している自分に驚いた。


身構えなければ、あっという間に４年の溝は埋まってしまうらしい。

それがいいことなのかどうなのかはわからないけれど。



「圭吾は？　おじさんと、今もあの家で暮らしてんの？」

「おー。親父は今も月の半分は出張だから、ほぼ俺はひとりで暮らしてるようなもんだけどな」

「マジ？　寂しくないの？」
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