【短編】澱(おり)
「別に、男同士だし。親父を恋しいと思うほどガキじゃねぇよ。でも沙奈がいたら楽しかったのかなとかは、時々思うけどな」


当たり前みたいに、圭吾は言う。

私は、なんと返すべきなのか。


ため息混じりに立ち上がり、私はクローゼットを開けて、奥を探った。


引っ越しの時に封をして以来、一度も開けていない段ボール箱の、ガムテープを外す。

少し緊張しながら箱を開くと、中には昔のアルバムが。



「お、懐かしいな」


そのうちの1冊を取り出し、ページをめくると、幼い私と圭吾がいた。



「圭吾とかお父さんとかおばさんとかが写ってるのは全部捨てようと思ったんだけど、そしたら私の子供の頃の写真ほとんどなくなっちゃうなって思って、どうしたらいいのかわからずにずっとしまってたんだよね」


圭吾の言った通り。


あんなことがあっても、アルバムの中で笑う私たちの時間まで失ってしまったら、過去のほとんどが空白になる。

そんなことは私もわかっていたから、だから先ほど反論できなかったのだ。



圭吾も私の手にあるアルバムを、目を細めて覗き込んできた。



「この写真、いつのだっけ」

「あー、1年生じゃない? 私が髪の毛ばっさり切ったあとのやつ」
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