【短編】澱(おり)
知らないうちに、日付けは2月14日になっていた。
あんなことがなければ、4年前の今日、私は圭吾に告白していたのだろうか。
背中を向ける私を、圭吾は後ろから抱き締める。
「こっち向けよ」
「やだよ」
圭吾にとっては慣れた行為なのかもしれない。
別にそんなことは、わかった上で受け入れたのだけど。
私は、初めての痛みが気だるかった。
圭吾は背中を向けたままの私の髪を梳きながら言う。
「翔太がさ、言ったんだ。『紹介したい子がいる』って。『カノジョの友達なんだけど、時々、何もかも諦めたみたいな顔することがあって、それがすごい圭吾と似てんだ』、『だから、仲よくなったらふたりは分かり合えるんじゃないか』って。その『さーちゃん』が、まさか沙奈のことだとは思わなかったけど」
偶然なのか、因果なのか。
「私ね、今は圭吾に会えてよかったと思ってるよ。これでやっとちゃんと、前に進める気がするし」
しかし圭吾はそれには答えない。
「もう寝ろよ」
背中にある、重みとぬくもりが、悲しい。
愛でも恋でもない、これはただの、慰め合いでしかないから。