【短編】澱(おり)
放課後になり、結衣に引っ張られて、駅へと向かう。
今日は早く帰って寝たかったのに、なのに結衣は私の話なんか聞いてくれない。
駅の噴水前で、冬の寒さに身震いしていると、
「結衣ー!」
と、向こうから茶髪が駆けてきた。
結衣はすぐに笑顔になる。
「翔太ー! こっち、こっち!」
結衣のカレシの翔太くん。
ふたりは中学の頃から付き合っているらしく、別々の高校に進んでも、未だにこちらが迷惑するほど仲がいい。
その所為でたまにデートに巻き込まれる私は、たまったものじゃないのだけれど。
「さーちゃん、久しぶりー」
「だからそのバカっぽい呼び方やめてってば。私のこと『さーちゃん』って呼ぶの、翔太くんだけだからね?」
「さーちゃんはさーちゃんっしょ」
だからそれをやめろと言っているのに。
あまり話しが通じないところは、結衣と一緒だと思う。
長く吐いたため息が白い。
「ねぇ、寒いんだけど。カラオケでしょ? 早く行こうよ」
今日、私がふたりのデートに呼ばれた理由は、カラオケ屋のクーポン券があるから。
何でも、人数が多ければ多いほど、割引率が高くなるのだそうだ。
私はあまりの寒さに耐えかね、早く行きたかったのだけれど。
「ちょっと待って。もうひとり呼んでるから」