【短編】澱(おり)
episode 5
今回のことは、お互いに悪いわけじゃないと思う。
ただ、私たちは、合わなかっただけ。
結果として、結衣の言っていたことの方が正しかったわけだけど。
私は今まで一体何をやっていたのだろうかと落ち込み、ぼうっと電車に揺られていたら、いつの間にか降りるはずの駅を通過していた。
はっとして外の景色を確認していると、
「次は高木町駅です。降り口は右側になります」
という、アナウンスが。
高木町駅。
懐かしい響きに、どくんと心臓が跳ねた。
4年前まで、私が暮らしていた町だ。
ドアが開いたので電車を降りて、戻るために反対側のホームまで行こうとしたけれど、でも迷いに迷って、私は改札から外へ出ることにした。
駅前には知らない看板も増えていたが、コンビニや何かはそのままだった。
楽しい思い出も嫌な記憶に塗り潰されてしまい、もう二度とこの町にくることはないと思っていたのに。
なのに、どうして私は足を進めてしまっているのか。
どんなに新しい建物が建っていても、体は覚えているらしく、迷うことなく道をたどっている自分がいた。
小学校の前を右折して、そこから真っ直ぐ行ったところにある郵便局の角をまた右折。
すると、そこにはかつての新興住宅街が。