【短編】澱(おり)
「は? もうひとり?」


翔太くんの言葉に、眉根を寄せる私。



「人数多ければ、安くなるし盛り上がるし、いいことづくめじゃん? だから、俺もひとり呼んだんだよ。バイト仲間なんだけど」

「えっ」

「あ、大丈夫だよ。俺らとタメだし。あとでさーちゃんにも紹介するよ。ちょっと女関係はだらしないけど、そこさえ目を瞑れば、めちゃくちゃいいやつだから」

「いやいや」

「ってことで、さっき連絡きて、もうちょっとしたら着くらしいから、待っててくんない?」

「いやいやいやいや。全然意味わかんないんだけど」


知らない人も一緒にカラオケに行くだなんて、絶対に嫌だ。

しかも、何だかよくわからないけれど、女関係はだらしないやつとか、最悪じゃないか。


私は思わず抗議の声を上げたが、しかしそれより先に、あたりを見まわした翔太くんは、ぱっと笑顔になった。



「おーい! 圭吾ー!」


圭吾?


聞き覚えのある名前に、びくりと肩が跳ねた。

でも、よくある名前だし、まさか、そんなはずはないだろうと、恐る恐る顔を向けたのだけど。



「……沙奈?」


背が伸びて、4年前の面立ちを残しながらも大人になった本物の圭吾が、目を見開いて、私の前に立っていた。


もう二度と会うことはないと思っていたのに。

嘘だと思いたかったのに。
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