婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 明らかに不利な状況に置かれているアンジェリ―ナが、やたらとにやけ顔で自分を眺めてくるものだから、エリーゼの方でも混乱が生じたらしい。しおらしい表情に、一瞬戸惑いが浮かんだ。

「――ゴホンゴホンッ。待っていたぞ、アンジェリ―ナ」

 アンジェリ―ナがエリーゼを見てばかりいるせいか、スチュアートが咳払いとともにもう一度同じセリフを吐いた。我に返ったアンジェリ―ナは、そこでようやくスチュアートに目を向ける。

「スチュアート様。遅れまして申し訳ございません」

「全くだ。主賓でもないお前が遅れるなど、大した身分だな」

 そもそも、アンジェリ―ナは遅刻をしたわけではなく、侍従からの声かけがあってすぐに宴の間に向かった。だが周りの様子から察するに、意図して声かけを遅らされたらしい。スチュアートの策略、または侍従の意地悪のどちらかだろう。

 こういった理不尽な仕打ちは、この一ヶ月、何度も経験している。

「さっそくだが、お前に告げたいことがある」
 
 スチュアートが、声のトーンを低くした。

(ゲームと同じセルフ。来たわ……!)
 
 アンジェリ―ナは、ぐっと拳を握りしめる。
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