婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 友好条約締結は断ったため、奇襲をしかける必要などないのだが、目の前のターバン姿の間者ふたりは知る由もないのだろう。

 ラスカル大臣は、瞳に闘志を燃やしたターバン姿の男たちに、あっという間に追い込まれる。助けがくる前に、手早く仕留めるつもりなのだろう。男のひとりが、目に殺意を漲らせて剣を振り上げた。

 そのとき、ラスカル大臣の顔の横を、背後から飛んできた"何か"がかすめた。

 その“何か”は、くるくると回転しながら剣を振りかざしているの男の顔にまっすぐめり込むと、地面に落ちてぐしゃりと割れる。トゲトゲがびっしりと生えた、見たこともない果物だ。ここアッサラーン王国にしか生息していないのかもしれない。

 鼻を突くような悪臭が、むおん、と辺りに満ちた。

「うっ……!」

 顔面にそれを当てられた男はガクガクと震え、隣にいる男も「オエエッ」と言いながら口もとを抑える。彼らはもだえ苦しみながら、汚臭から逃げるように人混みの中へと消えていった。
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