婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 エリーゼに促されるがまま、スチュアートはもう一度椅子に横柄に腰を降ろす。エリーゼは満足げに微笑むと、スチュアートの腕に身を寄せた。

「さあ。気を取り直して、パーティーの続きを楽しみましょう」

「もちろんだ」

 そうは答えたものの、自分たちに会場内から胡乱な眼差しが向けられるのを、スチュアートは感じ取っていた。

 優雅な管弦楽の音に誤魔化されてはいるが、ザワザワ、ヒソヒソ、という人々の心無い囁きは、容赦なくスチュアートの耳に入ってくる。

 アンジェリ―ナを“悪魔の塔”に追放し、晴れてエリーゼを傍に置くことが叶ったあの頃は、うかれるあまり周りが見えていなかった。

 それどころか、貴族も、平民も、窓の外を行き交う小鳥たちや空に浮かぶ雲でさえ、自分とエリーゼを祝福していると信じて疑わなかった。

 それほど、スチュアートは、アンジェリ―ナとは真逆のエリーゼの美しさに夢中だったのだ。

 だが、日を追うごとに、スチュアートは周囲から自分がどう見られているかを感じるようになった。
< 108 / 206 >

この作品をシェア

pagetop