婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 驚きのあまり、スチュアートは椅子から転げ落ちそうになる。

「どうした? なぜ急に、そのような心変わりをされたのだ?」

「“もやしの聖女様”の存在にございます」

「もやしの、せいじょ?」

 耳慣れない言葉に、スチュアートは眉を顰める。

「最果ての塔に住む“もやしの聖女様”は、この国の芸術の可能性を私に示唆し、そのうえ賊から私の命をお救いになられました。彼女の御心を受け、我々は改心いたしました。尊い彼女を守るために、我々は貴国との条約締結を心より望みます」

 スチュアートの頭の中が、激しくこんがらがっている。

 ラスカル大臣が何を言っているのか、彼にはさっぱり理解できない。

「そ、そうか。とにかく、貴国が考えを改めてくれて、我が国としても助かった。ここに締結を結ぼう。おい、書類を用意しろ」

 混乱しつつも、傍に控えていた侍従に命じ、必要なものを用意させる。やがて、条約締結のための書類が整ったテーブルが、スチュアートの前に運び込まれた。

 ラスカル大臣がサインをしている様子を、椅子に横柄に腰かけ見物しながら、スチュアートはある可能性について考えていた。
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