婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
(最果ての塔に住む“もやしの聖女”? もしや……)

 最果ての地、塔、そして女。

 当てはまる人物は、ひとりしかいない。 

 ふいに視線を感じ、隣を見やる。

 エリーゼの複雑そうな表情を目の当たりにして、スチュアートは確信を得た。

(やはりエリーゼも、気づいていたんだな。“もやしの聖女”とは、おそらくアンジェリ―ナのことだ)

 最果ての塔に幽閉されながらも、まるであざ笑うかのように、あっという間にスチュアートの失敗を清算したアンジェリ―ナ。

(あの女は、やはり俺をバカにしている! 許せない)

 スチュアートは、爪が掌に食い込むほど拳を握り締めた。

 いつだってそうだった。

 この国の最高地位にいる男といずれは結婚できる立場にいるのに、あの女は嬉しそうな顔ひとつ見せたことがなかった。

 いつも淡々とスチュアートに助言をし、彼を敬ったり慕ったりもといった様子もなく、隣に立っているだけだ。それはまるで、親の取り決めだから仕方なくここにいるのだ、と言っているかのようにスチュアートには思えた。

 そんなアンジェリ―ナが、スチュアートは前々から腹立たしくて仕方がなかったのだ。
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