婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
(――エリーゼ?)

 スチュアートは足を忍ばせて声のする方向に近づくと、物陰に身を潜ませそちらを覗き込んだ。

 案の定、そこにはエリーゼがいた。

 その向かいには、金髪の見知らぬ男がいる。濃緑の軍服と羽のついた同色の帽子から察するに、城の衛兵のようだ。自分ほどではないが、細面のなかなかの美男である。

「エリーゼ様、スチュアート殿下を探しておられるのでは? いけません、このような……」

 金髪の衛兵は、ひどく狼狽していた。

 というのも、目の前にいるエリーゼが彼の胸にしなだれかかっているからだ。

「少しだけ、少しだけでよいのです。エリーゼの好きにさせてください」

「しかし……」

「スチュアート様は、朝からおかしいのです。私の方を見向きもされないし、私、寂しくてどうにかなってしまいそう……」

 潤んだ瞳が、目の前の男に向けられる。頬を染め、濡れた唇は半分開いており、男心をくすぐるには充分な表情だ。

 衛兵は真っ赤になりながらも、エリーゼを抱き返そうとはしなかった。彼女が自分の主の恋人であることを、心得ているからだろう。
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