婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 思いもしなかった情景を目の当たりにして、スチュアートの頭の中が、すうっと冴えていく。スチュアートは、足音を立てずにその場を離れた。

(私はいったい、あの女の何を見ていたのだ)

 恋人の痴態を前にしても、不思議とショックは受けていなかった。

 そのうえ、ふたりを強引に引き裂いたり、相手の男を殴ったりする意欲もわかなかった。

 心のどこかでは、エリーゼの軽率な本性に気づいていたのかもしれない。

 そう悟った瞬間、スチュアートは自分の本心を思い知る。

 頭に浮かんだのは、アンジェリ―ナの顔だった。

 南国マイカと友好条約を結んだときの彼女の言葉を思い出す。

『スチュアート様。マイカの人々は宴が大好きだとおうかがいしました。全力でもてなして、楽しんでいただきましょう』

 アンジェリ―ナは相手国の国民性を調べ、もてなし方を判断していたのだ。

 エリーゼのように、パーティーであれば誰でも好きだろうと、安直に考えたのではない。もしもアンジェリ―ナがポルトス国をもてなす立場だったなら、ラスカル大臣の人柄を見抜いて、おそらく違う手段に出ただろう。
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