婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 屈強な石壁のあちらこちらに掲げられた額縁の中は、エリーゼの顔で埋め尽くされていた。

 黄色いドレスを着てスチュアートと並び、恥じらっている顔。スチュアートと向かい合い、満面の笑みを浮かべている顔。うっとりとした顔で、スチュアートとキスをしている顔。

 エリーゼの顔は、完璧なまでに美しく描かれていた。見ようによっては、実物よりずっと綺麗なくらいだ。

 その一方で、スチュアートの顔はかなりぞんざいだった。どの顔にも『へのへのもへ』という謎の落書きが雑に描かれているだけだ。

「なぜ、エリーゼ様の肖像画など、お集めになられているのでしょう……?」

 一種の呪いなのかしら?と訝しんだが、それにしても美麗な絵が多い。

 もやしを育てたり、そのもやしをわざわざ庭で食べたり、謎のルートで入手した果物に奇妙な模様を刻んだり、ここに来てからのアンジェリ―ナの行動はいつも不可思議だった。

 その中でも、これは断トツで理解しがたい。

「――これは、なんだ?」

 今の今まで押し黙っていたビクターが、唸るような独り言を吐いた。
< 128 / 206 >

この作品をシェア

pagetop