婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する

　低くて耳心地のよい声が、宴の間全体に響き渡る。

（こんなキャラ、いたっけ……？）

　まったく記憶にない。本編のシナリオに直接絡まないキャラだろうか。モブキャラが、なぜこんな重要な場面に絡んでくるのか。
　
　騎士らしき男の気迫に、スチュアートは多少気圧されたようだった。
　
　男は、細身のスチュアートより体格がよく、上背もある。あの鋭い瞳で見下ろされたら、怯む気持ちも分からないでもない。

「ビクター、邪魔だ！　衛兵、連れて行け！」

　結局その男は、数多の衛兵に取り囲まれ、強制退室させられた。アンジェリ―ナは安堵の息を吐きつつも、胸の内で落ち着かない気持ちになっていた。

（何か変……）
　
　案の定、再びアンジェリ―ナに向きなおったスチュアートが、想定外のセリフを口にする。

「お前など、城から追放してやる！　婚約は破棄だ！　領地に戻り、一生慎ましく暮らすがよい！」

　えっ、とアンジェリ―ナは表情をゆがめた。

（制裁、ぬるくない！？）

　アンジェリ―ナの表情の変化を、ショックによるものととらえたのだろう。スチュアートが、どうだと言わんばかりの笑みを浮かべている。