婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 唐突に、ビクターが凄んだ声でアンジェリ―ナを呼んだ。そして一歩前に出ると、心なしか血色の悪い顔でアンジェリ―ナを見下ろす。

「アンジェリ―ナ様はこの絵を見て楽しんでいたと、そういうことですね」

「ええ、そうです」

「俺が彼女と並ぶ絵を見て、あなたは楽しいとお思いになるのですか?」

「そうです。エリーゼ様とあなたなら、きっとお似合いになられますから」

 アンジェリ―ナのあっけらかんとした返事を聞くなり、ビクターは瞳を伏せると、部屋をあとにした。彼が階段を駆け降りる音が、遠ざかっていく。

 ララは、慌ててアンジェリ―ナに声をかけた。

「いいんですか、アンジェリ―ナ様? ビクター様、ものすごく怒っていらっしゃいましたよ!」

「だから何? 何をしようと私の勝手じゃない」

 ララは盛大なるため息を吐いた。

 ビクターの一途な想いがアンジェリ―ナに届く日は、いつか訪れるのだろうか。一生訪れない線の方が、濃厚な気がする。

 ビクターのことなどすっかり忘れた様子のアンジェリ―ナは、「夜に見るといっそうかわいいわ」「早く別のスチルも書かなきゃね」と、エリーゼの絵を見てきゃっきゃとはしゃいでいる。

 それからアンジェリ―ナは、ララが耳を疑うようなとんでもないことを呟いたのだった。

「ああ、できれば自分で描いたスチルじゃなくて、本物にお会いしたいわ」
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