婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
     ※

 アンジェリ―ナの隠し部屋をあとにしたビクターは、塔の外に出ると、いつも寝処にしている厩に辿り着いた。

 暗がりの中、ビクターの気配に気づいた愛馬のルドルフが、ブルルと鼻を鳴らす。

 ルドルフの鼻をひと撫でしてから、ビクターは毎晩そうしているように、敷き詰まった藁の上にゴロンと横になる。  

 見たばかりの絵画を思い出すたび、猛烈な不快感に襲われる。好いた女性が、自分と別の女性の絵姿を見て酔いしれている――こんな複雑な状況に出くわした男が、いまだかつてこの世にいただろうか。

(どんなに想いを伝えても、アンジェリ―ナ様には全く届かないのか)

 その身が、藁の奥底にズブズブと沈んでいきそうなほど、彼は意気消沈していた。
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