婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 ビクターはもともと、自分の想いを正直に口にする性質ではない。だが、アンジェリ―ナに対してだけは違った。

 溢れる想いを素直に口にしないと、彼女には一生振り向いてもらえない気がして、彼は強引に己の性格を変えたのだ。


 アンジェリ―ナを初めて目にしたのは、まだ一介の騎士に過ぎなかった四年前のことだった。

 乳兄弟でもあるスチュアートに、かねてからの婚約者である彼女を紹介されたのだ。

『ビクター。会うのは初めてだろう? こちらが婚約者のアンジェリ―ナ嬢だ。アンジェリ―ナ、こちらは私の幼い頃からの友人のビクターだ』

 当時、アンジェリ―ナはまだ十四歳だった。それにも関わらず、彼女は物怖じしない眼差しをビクターに向け、スカートを摘まんで華麗に礼をした。

『はじめまして、ビクター様。アンジェリ―ナ・メリル・ランバートと申します』

 彼女は十四歳にしては、顔も、体つきも成熟していた。だが面影には、たしかに少女のあどけなさが残っている。

 一方で、仕草は高貴な淑女そのものだった。そのアンバランスさが、彼女の魅力を絶妙に引き立てている。

(何だ、この気持ちは……)
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