婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する
 厩の粗末な屋根を見つめながら、ビクターはアンジェリ―ナに想いを馳せる。

 冷たくしたい気持ちを押し殺して、何度もアンジェリ―ナに愛していると伝えた。だが、彼女には全く響かない。

 ビクターがどんなに情熱的な言葉を口にしても、アンジェリ―ナはあっけらかんと跳ね返す。

 そもそもこの塔に来たとき、アンジェリ―ナはビクターが誰か気づいていなかった。ビクターなど、アンジェリ―ナにとっては、いてもいなくてもよい存在なのだ。

(彼女に、俺の気持ちが届く日はくるのだろうか)

 ビクターは藁の上で寝がえりを打つと、諦めに似たため息を、胸の奥底から吐き出したのだった。
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